パテントコラム

2022年8月

【Topic.1】判例紹介:「KENKIKUCHI」事件

本件の事件番号は、平成31年(行ケ)第10037号で、判決は、知財高裁第3部により、令和元年8月7日に言い渡されました。
本件は、他人の氏名を含む商標に関するもので、「KENKIKUCHI」の文字部分を含む商標に係る出願の拒絶審決の取消請求訴訟です。
他人の氏名を含む商標の出願については、商標法4条1項8号により一律で拒絶されている現状にあり、本件判決も請求棄却として拒絶の結論をとったものです。
そして、日本経済新聞7月1日記事等の報道によりますと、2022年内を目処に、他人の氏名を含む商標の登録を条件付きで可能にする法改正がこれから進められるそうです。その条件としては、他人の氏名が周知でないことが有力であるようです。
他人の氏名を含む商標が拒絶される理由は、人格権の保護を図ることにあったのですが、法改正に当たり、人格権の保護との関係がどのように説明されるのか、興味深いです。興味のある方は、特許庁の本年3月付け「他人の氏名等を含む商標に関する調査研究報告書(要約版)」を適宜ご参照ください。そのPDFのURLは、【https://www.jpo.go.jp/resources/report/takoku/document/zaisanken_kouhyou/2021_04-summary.pdf】です。

さて、本件判決のお話ですが、本件訴訟の対象である審決では、羽を広げた猛禽類の黒シルエット内に「KENKIKUCHI」の白抜き文字が横書きされて成る本件の商標につき、次のように判断されました。即ち、本願商標は、「KENKIKUCHI」の文字部分を、「キクチ・ケン」を読みとする氏名を「名」「姓」の順にローマ字表記したものと容易に認識させるものであり、「キクチ・ケン」と読まれる「菊池 健」という氏名の者が各地域のハローページに掲載されていることから、その校正中に他人の氏名を含む商標であるといえ、且つ、上記他人の承諾を得ているとは認められないものであるから、商標法4条1項8号に該当し、登録することができない、とされました。
そして、本件判決では、次のように判示されました。
即ち、商標法4条1項8号は、「他人の氏名・・・を含む商標」と規定するものであり、当該「氏名」の表記方法に特段限定を付すものではなく、同号の趣旨は、自らの承諾なしにその氏名、名称等を商標に使われることがないという人格的利益を保護することにあると解されるところ、自己の「氏名」であれば、それがローマ字表記されたものであるとしても、本人を指し示すものとして受け入れられている以上、その「氏名」を承諾なしに商標登録されることは、同人の人格的利益を害されることになる、とされました。
又、本願商標の構成中「KENKIKUCHI」部分は、「キクチ(氏)ケン(名)」を読みとする人の氏名として客観的に把握されるものであり、本願商標は人の「氏名」を含む商標であると認められ、ハローページに記載された「菊池 健」又は「菊地 健」という氏名の者は、何れも本願商標の登録出願時から現在まで現存している者であると推認でき、又他人であると認められるから、本願商標は、その構成中に上記「他人の氏名」を含む商標であって、且つ、上記他人の承諾を得ているものではなく、本願商標は商標法4条1項8号に該当する、とされました。
尚、本件判決では、同号の「他人の氏名」の著名性、希少性、周知性についても、これらを考慮する必要がない(要件ではない)と言及されています。