パテントコラム

2017年5月

【Topic.1】特許紛争裁定制度の新設を予定

(2017年4月6, 20日 日本経済新聞)

新聞報道によれば、「特許庁は企業間の特許紛争をすばやく解決するため、新しい裁定制度をつくる」とのことです。経産省と特許庁の有識者検討会がまとめた報告書では「IoT」技術やビッグデータの活用を進めるため、データの不正取得や企業間の紛争対策について不正競争防止法、特許法の見直しを提言していますが、その中で、重要な特許を握って濫用的な権利行使を行う「パテント・トロール」への対抗策としてトロールに巻き込まれた企業が駆け込むことができる裁定制度を新設することも盛り込まれているようです。
現在既に設けられている民間ADR(日本知的財産仲裁センター等)との関係を整理した上で、特許庁が選定する専門家がライセンス契約、特許権侵害紛争等の裁定を行い、中小企業等が使いやすい制度を設けるようです。

【Topic.2】知財訴訟の保険拡充

(2017年4月24日 日本経済新聞)

「特許庁は7月から,中小企業が海外で知的財産権を巡る訴訟に巻き込まれた場合の費用をまかなう保険制度を拡充する」との記事がありました。保険対象地域を全世界とし、保険金支払限度額を最大5千万円とするとのことです。これまでも同様な保険制度はありましたが、より保険内容が拡充され、すでに4月24日から募集が開始されています。

【Topic.3】その他

5月20日~25日まで国際商標協会(INTA)の年次総会がスペイン、バルセロナで開催され、参加して参りました。190ヶ国から総計で約12,000名が参加し、海外代理人とのネットワークの確認、構築などに役立つと共に、様々なセッションが開催されるため、商標などの各国情報のアップデートも可能です。
今回、TM5会合(日本、米国、欧州、韓国、中国の各商標担当庁による会合で、これらの国の商標実務に関する情報交換、対応などを目的とする)によるワークショップが行われ、「悪意の商標出願」の各国状況が報告されました。「悪意の商標出願」とは、不正目的を持った商標出願で、有名なブランドなどの商標が登録されていない国において無関係な第三者により無断で商標出願されるものなどを含み、多くの国で問題になっています。
「悪意の商標出願」対策プロジェクトは日本特許庁主導で進められており、今回のワークショップでは上記の5ヶ国からそれぞれ10件ずつ「悪意の商標出願」に該当する例を示したリストが公開され、同内容の報告書が次頁に示すウエブサイトに掲載されています。

http://tmfive.org/wp-content/uploads/2016/12/The-Compilation-of-Case-Example-of-Bad-faith-Trademark-Filings.pdf

他人の周知商標のブランド力を利用して利益を得用とする者(フリーライド)の商標出願や、自らの使用意思がなくライセンス目的の商標出願などがいずれの国でも問題となっていることから、上記5ヶ国の商標担当庁の連繋により悪意の商標出願対策が進むことを期待します。

【ご参考】以下は、上記の報告書に掲載されている事例の一部です。

日本【周知商標のフリーライドとして登録無効とされた例(左側の商標)】
韓国【周知商標のフリーライドとして登録無効とされた例(右側の商標)】
中国【周知商標のフリーライドとして異議により登録取消とされた例(右側の商標)】
米国【周知商標のフリーライドとして異議により登録取消とされた例(右側の商標)】
欧州【チリでの周知商標のフリーライドとして登録無効とされた例(左側の商標)】

※“Case Examples of Bad-Faith Trademark Filings  May 21, 2017” より引用