2017年7月
【Topic.1】パロディ商標の行方
今年の3月上旬に「フランク三浦(登録商標は「浦」の右上の「、」は存在しない手書き風の書体)」が「フランクミュラー」に最高裁で勝訴したという報道がなされたことは記憶にある方も多いかと思います。そこで、今月はパロディ商標について考えてみたいと思います。
「パロディ」とは、「広く知られている既成の作品を、その特徴を巧みに捉えて、滑稽化・風刺化の目的で作り変えたもの」とされており、作り変えたものではない盗用や剽窃(ひょうせつ)とは明確に区別されます。本事件もそうですが、このようなパロディものを商標の類否の観点から見た場合、非類似の商標と考えられるケースがほとんどではないかと思います。なぜなら、互いの商標が類似していて本物と混同が生じてしまうようではパロディとしての役目を果たせないからです。
この「フランク三浦」事件は、商標登録無効審判の審決取消訴訟として争われた事案です。特許庁は、両商標は外観が異なるものの、「フランクミウラ」と「フランクミュラー」とは称呼が類似し、「フランク三浦」からは著名な「フランクミュラー」を想起されるから観念も類似するとして登録無効審決を下しました。これに対し、知財高裁は、両商標は称呼が類似するものの、「フランク三浦」からは「フランクな三浦さん」という観念が生ずるとして、外観と観念の相違は称呼の類似を凌駕するとして非類似商標との判断を下し(登録無効審決取消の判決)、最高裁では上告が棄却されました。もっともかかる判決が下されたのには、時計は称呼のみで購入することはなく目で見て外観を確認して購入するのが通常であることや、一方が数百万円の超高級時計で、もう一方が5000円前後の安物であって、その販売方法もパロディに徹している(真似ようという気はさらさら無い)という背景があったことが大きな影響を与えています。
パロディ商標については5年ほど前にも報道を賑わせた事件がありました。「面白い恋人」vs「白い恋人」の侵害訴訟事件です。こちらのケースでは、「面白い恋人」の商標出願は特許庁において4条1項7号該当で拒絶査定が確定しましたが、その使用を続けた結果、侵害訴訟へと発展した事案です。
こちらの裁判は和解により決着しましたが、和解金なしで、パッケージデザインを変更し、北海道と青森を除いた地域では「面白い恋人」の販売ができるという被告断然優位の和解内容からみて、もし和解が成立せずに判決に至ったとしても原告が敗訴したのではないかという気がしています。
これら二つの事件からみて、対世的な独占排他権を与える審査業務ではパロディ商標の登録は難しいものの、当事者間の紛争解決を目指す裁判所ではパロディであることが明らかなケースについては比較的柔軟な判断がなされてきたように思われます。この「フランク三浦」事件の判決が特許庁での審査実務に影響を与えることがあるとするなら、今後、パロディ商標は登録しやすくなっていく傾向にあるかもしれませんが、オリジナルの所有者から見れば、パロディ商標を使用されることはブランドのイメージにかかわる問題であり、また、自分の著名商標を利用して利益を上げているように映るでしょうから、今後も無断使用した場合にはやはり紛争のリスクがあると言っていいかもしれません。