パテントコラム

2017年11月

【Topic.1】営業秘密の漏洩

(2017年10月20日 日本経済新聞)

切削工具大手OSG(愛知県豊川市)の営業秘密に当たる製品の設計データを不正に持ち出したとして、当時研究開発部門に属していた元従業員が、不正競争防止法違反(営業秘密の領得)の疑いで逮捕されたことを報じた記事がありました。設計データは、中国の競合会社に勤務する中国籍の知人男性に渡ったようです。
そして、関連して、企業の秘密漏洩が後を絶たないことが示されていました。営業秘密に関する検挙は、2013年で5人、2016年で18人と、3年で大幅に増えたようです。また、(独)情報処理推進機構が昨年度民間企業を対象に実施したアンケート(2175社回答)では、過去5年間に漏洩があった旨の回答が8.6%あったそうです。
設計情報等の電子化はますます進み、セキュリティが軽ければ漏洩のための情報の複製はより簡単になっています。漏洩対策は従前より言われていることではありますが、最近漏洩の発生が増加傾向となっているようで、漏洩発生の割合も割と高いようですので、設計ソフト更新時等の機会に、今一度対策の見直しをされることがよろしいかと存じます。

【Topic.2】発明の進歩性に関する「容易の容易」

「容易の容易」、ご存じですか?
進歩性に係る基本的な事柄なのかもしれませんが、当方は最近まで阻害要因の一例として弱く把握していたものの、はっきりと認識していませんでした。
研修で明確に認識し、進歩性肯定のための有力な主張の一つとして理解すべきと感じましたので、以下裁判例と共にごく簡単に紹介いたします。尚、理解を容易にするため、裁判例の発明や引用発明、審決や判示事項等について、当方がかなり簡略化しています。
知財高判平成28年8月10日(平底幅広しゆん浚せつ渫用グラブバケット事件)では、左右のシェル(川底の土砂が入る箱状の爪)が開閉するグラブバケットにおいて、シェルの上部にシェルカバーを密接配置し、そのシェルカバーに空気抜き孔を形成し、更に空気抜き孔に開閉式蓋体を取り付けた発明について、進歩性を認めなかった無効審決が取り消されました(進歩性肯定)。
無効審判では、三種類の発明を引用して進歩性が否定されました。即ち、①シェルカバーのない浚渫用グラブバケット(引用発明1)、②シェル上部に対するシェルカバーの密接配置(周知例2)、③シェル上部における空気抜き孔の形成(周知技術3)、を引用しました。これらは、互いに別の文献により認定されています。そして、①に②を組み合わせ、更に②のシェルカバーに③の空気抜き孔を組み合わせれば、本発明は容易に想到可能であるとされました。
その審決取消訴訟である本件において、裁判官は、①に②を組み合わせた構成については容易に想到し得たものの、その構成に更に③を組み合わせることは、いわゆる「容易の容易」に当たり、シェルカバーに空気抜き孔を形成する構成の容易想到性を認めることはできない、としました。
このように、主引例に係る相違点を補うための副引用例にしかない構成に副々引用例の構成を組み合わせて進歩性を否定することに対しては、「容易の容易」であるとして反論することができるのです。
尚、本件では、課題の検討等、多面的な事項が判示されていますので、ご興味がおありでしたら、少し長いですが、裁判所サイトの裁判例情報から判決をご覧ください。本件の事件番号は、知財高裁 平成27年(行ケ)第10149号 です。