パテントコラム

2018年8月

【Topic.1】企業内弁護士 10年で10倍に 個人情報や知財で需要 人材育成・待遇に課題

(2018年6月4日 日本経済新聞)

「企業で働く弁護士が増えている。いわゆる『企業内弁護士』の数は2017年末時点で2000人を突破し、10年で約10倍になった。個人情報の取り扱いや知的財産など、法務のスキルを求められる場面が広がる。ただ法務のプロが経営幹部の一角を占めることが多い欧米に比べると、人材育成や待遇には課題もある。」とのことです。
近年の弁護士の数の増加に伴い、弁護士の就職難も取り沙汰されていましたが、弁護士事務所以外の勤務先も選択肢として増えているということです。ヤフーでは弁護士資格を持つ社員が約30人いるそうです。ちなみに企業内「弁理士」数は、全会員11354人中2583人(主たる事務所)で、全体の22.7%となっています(2018年5月31日現在、日本弁理士会HPより)。

【Topic.2】VBの特許取得を後押し 政府、審査短縮制度の要件緩和

(2018年6月13日 日本経済新聞)

「政府は12日、首相官邸で知的財産戦略本部(本部長・安倍晋三首相)を開き『知的財産推進計画2018』を決定した。ベンチャー企業を対象に、2018年度中に通常1年以上かかる特許審査を約2.5ヶ月に短縮できる『スーパー早期審査』制度の利用要件を緩和する。技術力の高いベンチャー企業の特許取得を後押しする。」とのことです。 記事では特許審査が1年以上かかると記載されていますが、実際は審査請求後平均して約10月程度でファーストアクション(拒絶理由若しくは特許査定)が出されるまで短縮されています。 また、平成30年5月16日に、中小ベンチャー企業、小規模企業を対象とした特許料等の軽減措置が規定された「産業競争力強化法等の一部を改正する法律」も成立しています。これを受けて特許庁では、中小ベンチャー企業、小規模企業を対象として、「審査請求料」、「特許料(1~10年分)」、国際出願に係る「調査手数料・送付手数料」、及び国際予備審査請求に係る「予備審査手数料」を1/3に軽減する措置を講じています。 詳細は、特許庁HPのホーム > 制度・手続 > 出願窓口 > 手数料等の減免制度について >特許料等の減免制度 > 中小ベンチャー企業、小規模企業を対象とした特許料等の軽減措置が規定された「産業競争力強化法等の一部を改正する法律」が成立しました、で確認できます。

【Topic.3】中国、海外で商標出願急増 ブランド育成 政府が補助金

(2018年6月14日 日本経済新聞)

「中国が世界で商標(3面きょうのことば)の出願を増やしている。日米欧での出願は2017年までの3年で7倍近くに急増した。中国政府が世界的なブランド育成を目標に掲げ、国外での商標を含む知的財産権の出願に補助金を出している。」とのことです。
中国から日本への出願件数は17年に8464件と14年比で5倍強に増えているそうです。しばしば問題になっている中国からの先取り出願の増加も懸念され、トラブルが増えそうです。

【Topic.4】中国の特許出願138万件で断トツ 特許庁が年次報告書

(2018年6月29日 日本経済新聞)

「特許庁は28日、2018年度版の『特許行政年次報告書』を発表した。日本、米国、欧州、中国、韓国の5大特許庁それぞれの特許出願件数を比較したところ、中国が約138万件と圧倒的に多かった。伸び率は緩やかになったものの増加傾向が続く。米国は60万件、日本は約31万件といずれもほぼ横ばいだった。」とのことです。
これも特許庁HPのホーム > 資料・統計 > 統計資料 > 特許行政年次報告書で見ることができます。

【Topic.5】トマト飲料巡る訴訟 カゴメ勝訴確定

(2018年6月30日 日本経済新聞)

「トマト飲料の製法を巡り、食品大手『カゴメ』が飲料大手『伊藤園』の特許無効を主張した訴訟で、最高裁第2小法廷(三浦守裁判長)は29日までに、伊藤園の上告を退ける決定をした。27日付。カゴメ勝訴とした知的財産高裁判決が確定した。」とのことです。
無効の対象となった伊藤園特許第5189667号の請求項1は、「糖度が9.4~10.0であり、糖酸比が19.0~30.0であり、グルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量の合計が、0.36~0.42重量%であることを特徴とする、トマト含有飲料」という、いわゆるパラメータ特許となっています。
この発明の効果として明細書では、「トマト含有飲料の酸味が抑制され、トマト本来の甘みが際立ち、飲み易さが高められ、これらの作用があいまった結果、濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みを有しつつも、トマトの酸味が抑制されたものになる」と謳われています。本件明細書では、各要素数が請求項の数値範囲内の飲料の実施例と、各要素の何れかまたは全てが数値範囲内にない比較例とを挙げた上で、各例の飲料を12人のパネラーに試飲させて、「酸味」「甘み」「濃厚」につき7段階で評価させて、実施例が比較例よりも良好な結果がでた旨の説明がされています。
ここで争われたのはサポート要件違反の適合性で、知財高裁では、飲食品の風味は、飲食品中における上記要素に影響を及ぼす様々な成分及び飲食品の物性によって左右されることが本件出願日当時の技術常識であるといえるから、「甘み」、「酸味」及び「濃厚」という風味の評価試験をするに当たり、糖度、糖酸比及びグルタミン酸等含有量を変化させて、これら三つの要素の数値範囲と風味との関連を測定するに当たっては、少なくとも、
①「甘み」「酸味」「濃厚」の風味に見るべき影響を与えるのが、
・これら三つの要素のみである場合
・影響を与える要素はあるが、その条件をそろえる必要がない場合
は、そのことを技術的に説明した上で、上記三要素を変化させて風味評価試験をするか、或いは、
②「甘み」「酸味」「濃厚」の風味に見るべき影響を与える要素は上記三つ以外にも存在し、その条件をそろえる必要がないとは言えない場合は、当該他の要素を一定にした上で上記三要素の含有量を変化させて風味評価試験をするべきである、としています。
よって、このような風味評価試験をしていない本件明細書の風味評価試験の結果から、直ちに、糖度、糖酸比及びグルタミン酸等含有量について既定される範囲と、得られる効果というべき、濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがありかつトマトの酸味が抑制されたという風味との関係の技術的な意味を当業者が理解できるとはいえない、として無効審判での請求不成立の審決が取り消されたものです。なお、最高裁でこの判決が確定しましたので、差し戻し審判となります。

本件は食品分野に関するものですが、このように出願時の技術水準を検討した上で、請求項の要素(変数)が示す範囲と得られる効果との因果関係を明確にするという考え方は、技術分野に限らず、パラメータ発明においては、サポート要件違反を回避するために重要と思われます。