パテントコラム

2019年12月

【Topic.1】「ステーキの提供システム」事件についての考察

先日、「ステーキの提供システム」事件に関する研修を受けました。
本事件は、代表的には特許異議申立ての取消決定の取消訴訟(知財高裁平成30年10月17日判決、平成29年(行ケ)第10232号)ですが、審査段階(特願2014-115682、特許第5946491号)、異議の審理段階(異議2016-701090、訂正請求あり)を含めた各段階で興味深い経緯を経ています。
又、本事件の代表的な論点は発明該当性(特許法29条1項柱書)ですが、この他にも様々な論点を理論(学術)的にも実務的にも本事件から見出せます。
以下では、本事件から派生する一つの論点である、基本クレーム(最も広い請求項1の発明)を特許出願時にどのように設定すべきか、という論点について、研修で紹介されていた一つの考え方を、ご参考に供するためにご紹介します。尚、当方及び当事務所は、以下の考え方を常に推奨するものではありません。どの考え方をとるのが良いのかは、当然、ケースバイケースになります。

基本クレームの設定に関し、よく知られた考え方として、基本クレームを可能な限り(挑戦的に)広くし、段階的に下位クレームを設ける、というものがあります。この考え方は、審査がどう転ぶか出願時には分からないこと、又審査の出方を見て基本クレームを下位クレーム等への補正により微調整でき、可及的に広い発明の権利を取得し易いこと、更には出願公開等により広い基本クレームを見るであろう同業他社を牽制できることから、一定の合理性があります。本事件においても、発明該当性を得るためではあるものの、出願当初の広い基本クレーム(ステーキの提供方法)から、徐々に狭く補正・訂正されています(ステーキの提供システム)。
しかし、この考え方は、権利行使時に問題となる均等論の第5要件(包袋禁反言)に関し、不利となり得ます。なぜなら、この考え方によれば、広く設定した出願当初の基本クレームを、下位クレーム等の構成を付加する補正により限定して権利化するものであり、出願当初の基本クレームの技術的範囲については、権利化を諦めたものとして、包袋禁反言により特許権を主張できなくなるからです。
そこで、拒絶理由通知をもらうことなしに一発登録を受けるべく、比較的狭く基本クレームを設定する、という考え方が出てきます。拒絶理由通知をもらわなければ、特許性を主張する意見書の提出がなく、包袋禁反言の材料が出願時の書類しかないことになり、この意味で基本クレームが強いものとなります。又、出願後に基本クレームを狭く設定し過ぎたと気づいた場合、狭い基本クレームの一発登録を得ておいた上で、広い発明に係る分割出願を登録査定時に行うことができます。この考え方は、特にコストを多くかけ得るような重要な特許出願、又基本特許となり得る出願に向いているものと存じます。