パテントコラム

2021年11月

【Topic.1】裁判例紹介:「鉄骨柱の建入れ直し装置」 事件

本件の事件番号は、平成21年(ネ)第10028号で、判決は、知財高裁第4部により、平成22年4月28日に言い渡されました。
本件は、発明の進歩性に関するもので、原審(東京地方裁判所平成21年(ワ)第19469号)の結論を覆して進歩性を認め、その発明の特許に基づく侵害製品の差し止め等を認めており、数少ない控訴審逆転事案に係るものとして大事な判決です。
ポイントは、本件発明と主引例との<課題の相違>です。
本件判決では、裁判官は次のように判示しました。
「しかしながら,上記のとおり,本件発明は,ベースプレートの縁部を持ち上げる装置であるが,それはベースプレートを水平になるように微調整を含めた調整をするためであって,鉄骨柱の重量を積極的に引き受けてこれを上昇させようとするものではないのに対し,乙1発明は,対象物である車両の重量を積極的に引き受けて車両を上下させようとするものであって,その課題を異にし,また,それ故,必然的に,ナット又はチャリオットを上昇させる際に求められる精度,対象物を支えるために適した大きさや強度についての構造等にも違いが生ずるものであって,本件発明も乙1発明もジャッキ装置として共通すると直ちにいうことができるものではなく,また,このような相違が,当業者にとって適宜考慮し得る単なる設計事項ということもできないというべきである。」(下線は筆者)
つまり、本件発明と主引例(乙1発明)とは、重量物の持ち上げのためのジャッキ装置という点で共通するものの、課題において、ベースプレートの微調整のためにベースプレートの縁部を持ち上げるのか(本件発明)、あるいは対象物である車両の重量を積極的に引き受けて車両を上下させるのか(主引例)という相違があり、かような相違により、単なる設計事項の範疇を超える、とされました。
このように、近時、発明の進歩性の判断において、本件発明と主引例との<課題の相違>が重視される傾向にありますので、御社発明の出願方針ご検討の際や、特許出願の原稿チェックの際、あるいは進歩性に係る拒絶理由通知を受けた場合等に、ここで紹介した内容を思い出していただければ幸いです。
最後に、本件と同様に、発明の進歩性が<課題の相違>の重視により控訴審で逆転して認められた別の事件(「インターネットサーバのアクセス提供方法」事件)の番号等を紹介いたします。ご興味のある方は、裁判所ウェブサイトの裁判例検索等で判決をご覧ください。

事件番号:平成20年(ネ)第10085号
担当部 :知財高裁第4部(ご参考:高部眞規子裁判官他全3名)
判決言渡:平成22年3月24日