パテントコラム

2023年8月

【Topic.1】判例紹介:「インジェクターカートリッジ」事件

本件の事件番号は、令和3年(行ケ)第10067号で、判決は、知的財産高等裁判所第2部により、令和4(2022)年1月12日に言い渡されました。
本件は、意匠登録出願に係る拒絶査定不服審判の拒絶審決の取消請求訴訟で、意匠登録出願人が原告、特許庁が被告です。出願番号は、意願2019-17357号で、審判番号は、不服2020-11187です。本願意匠は、インジェクターカートリッジに係り、その形態は、下記左側の図の通りです。又、拒絶理由は意匠法3条1項3号(公知意匠類似)で、その引用意匠は、大韓民国意匠商標公報、登録番号30-0309501号に記載されたものであって、注射器用シリンジに係り、その形態は下記右側の図の通りです。
本件では、物品の類似判断が争点となりました。

判決は、原告の請求を認容し、拒絶審決を取り消しました。
即ち、判決は、審決について、本願意匠及び引用意匠に係る物品は、本願意匠が「インジェクターカートリッジ」であり、引用意匠は「注射器用シリンジ」であって表記は異なるが、共に医療用注射器の外筒の用途及び機能を有するものであるから共通するとし、両意匠の意匠に係る物品は同一であると認定した、と確認したうえで、次の通り、審決の認定を覆しました。

『「カートリッジ」は交換用の液体・ガスなどを充填した小容器を意味するものと推測される。なお,上記各証拠に照らす限り,「カートリッジ」が文言上,「外筒」を意味するものと認めることはできない。・・・
「インジェクターカートリッジ」は、「注射器用の交換可能な液体・ガスなどを充填した小容器」を意味するものと認めるのが相当である。
そうすると,本願意匠の意匠に係る物品を「医療用注射器の外筒の用途及び機能を有するもの」とした本件審決の認定には誤りがあるというほかない。・・・
他方,本件審決は,別紙第2記載の注射器の意匠のうち,「注射器用シリンジ」の意匠を引用意匠としているところ,当該部分に係る物品は,注射器用外筒の用途及び機能を有するものと認められる。そうすると,本願意匠と引用意匠の意匠に係る物品は共通しない。
したがって,本件審決の本願意匠に係る物品の認定及び本願意匠と引用意匠の同一性の認定には誤りがある・・・』

かように、意匠出願において、意匠に係る物品の非類似性は、登録に向かううえで重要な要素となります。本件の審査・審判段階では、原告は、意見書や審判請求書において、本願意匠と引用意匠の物品が「注射器等に用いられるカートリッジ」であって「物品が共通する」などと主張していたようですが、審決取消訴訟で物品の非類似性の主張を行ったため、拒絶審決の取消判決を得ることができました。被告(特許庁)は、審査・審判段階での原告の「物品が共通する」との主張について、自白の拘束力や禁反言の法理の適用を主張しましたが、判決は、不服審判が当事者系ではなく職権審理に係る査定系であることを理由に、これらの適用を認めませんでした。
尚、審決取消により差し戻った不服審判の二次審理では、意匠に係る物品及び物品の説明に関する意匠法7条及び3条1項柱書に基づく2022年5月17日起案の拒絶理由通知が、解消のための丁寧な示唆がなされた状態で発せられ、物品名(医療用インジェクターカートリッジ)及び物品の説明がほぼ示唆通りに補正されて、同年11月1日付けで登録に係る二次審決がなされ、同年12月2日に意匠登録第1731935号として登録に至っています。