パテントコラム

2024年8月

【Topic.1】判例紹介:「半田付け装置」事件

本件の事件番号は、令和3年(行ケ)第10136号、令和3年(行ケ)第10138号で、判決は、知的財産高等裁判所第2部により、令和4年8月31日に言い渡されました。
本件は、「半田付け装置、半田付け方法、プリント基板の製造方法、および製品の製造方法」の特許第6138324号(本件特許)の特許権(本件特許権)に係る無効審判(無効2019-800094号事件)の一部無効審決に対する審決取消請求事件です。
以下では、審決において進歩性無しの理由で無効とされ、本件判決において覆って進歩性有り(審決取消認容)とされた、本件特許の請求項1の発明(本件発明)について紹介いたします。

本件発明は、半田付け装置に関し、半田片の溶融時の形態に特徴を有するものです。その特徴に係る部分(本件発明の抜粋)は、次の通りです(下線は筆者による)。
【請求項1】端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置であって、・・・
溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す構成である半田付け装置。

特許庁の審決は、本件発明の進歩性につき、甲1(特開2009-195938号公報)に記載の発明(甲1発明)を引用することで否定しました。
特に、審決は、甲1にフラックス含有量についての記載及び示唆が無いものの、甲1発明において、フラックス含有量が1.0wt%である半田片を用いた場合、半田片が溶融し球となった場合の直径は半田ごての先端部の貫通孔内壁の径より大きくなり、溶融した半田は真球になれない、と判断しました。

これに対し、本件判決では、各種の証拠により本件出願日当時、フラックス入り半田の市場において普通に流通していなかったことを認定し、次の通り、審決における本件発明の進歩性無しとの判断を覆しました。
「以上によると、使用する半田に含有されるフラックスの量についての記載及び示唆がない甲1に接した当業者にとって、甲1発明においてフラックスの含有量が1wt%の半田をわざわざ採用し、溶融した半田が必ず真球にならないとの構成を得ることが容易になし得たものであったと認めることはできず、その他、当業者が甲1発明に基づいて溶融した半田が必ず真球にならないとの構成を得ることが容易になし得たものであったと認めるに足りる証拠はない。」

本件判例は、引用発明を、引用文献での言及がないものの特定のパラメータ(フラックス含有量)で解釈すると、発明の進歩性の否定につながり得る場合であっても、そのパラメータが発明に係る出願日当時において容易に実現できない(わざわざ採用するようなものである)ときには、進歩性を否定し得ないことを示しているものと言え、発明の進歩性に関し興味深い判示を行ったものと言えそうです。